補助金申請のためのパッケージエアコンの省エネルギー計算について
解説します
補助金申請に必要なパッケージエアコンの省エネルギー計算を解説。消費電力の調べ方や、COP・APFの効率指標、年間消費電力量やCO₂削減量の算出方法をわかりやすく紹介します。
冷暖房能力と消費電力の単位は同じkW
まずは消費電力の単位についてご説明します。
電気式パッケージ型空調機(以下パッケージエアコン)の冷暖房能力を表す単位としてkWを使います。
例えば、3馬力のパッケージエアコンの場合、定格の冷房能力がほぼ7.1kW、暖房能力がほぼ8.0kWになります。
この値はどのメーカーも殆ど変わりません。ルームエアコンの場合は、家電量販店などでよく6畳用や10畳用と表示されていますが、能力はパッケージエアコンと同様にkWで表示されます。
これに対し、消費電力量はパッケージエアコンがその機種の定格能力を発揮して運転した場合の1時間当たりの使用電力量を表しています。
機種ごとに効率などが違うため、それぞれの機械で違う電力量になっています。この消費電力量の単位もkWになります。
以前は冷暖房能力を表す単位はkcal/hでした。消費電力量は現在と同じでkWでしたので、表す数字の違いがはっきりして解りやすかったかもしれません。
平成5年にSI単位(国際単位系)に統一することが決まり、熱量の単位がkcalからkWに変わったため、パッケージエアコンの能力や消費電力については少し紛らわしくなってしまいました。
他にも天気予報などでよく使われる圧力の単位がミリアクア(ミリバール)からパスカル(ヘクトパスカル)に変わった事も国際単位系に統一された事によります。
いづれにしても、省エネ計算などで使われるパッケージエアコンのkWには冷暖房能力を表すものと電力量を表すものがあるという事を知っておいてください。
省エネルギー量の計算は何を評価している?
省エネルギーを目的とした補助金(以下補助金)を応募する際に「省エネ率30%以上やCO2削減量3トン以上」という条件が多くみられます。
この省エネルギー量を算出するために必要となる値が消費電力量になります。
補助金の種類にもよりますが、多くの場合1年間の消費電力量が更新前の機械と更新後の機械でどのくらい差があるのか、どのくらい電力量が下がるのかを評価する事になります。
従って、おおまかに言えば消費電力の低いパッケージエアコンを選ぶ事で省エネが達成できることになります。
もう少し詳しいご説明は後述します。
消費電力量を調べるには
省エネルギーを対象とした補助金を申請する場合は、既存の機種(取り外す機種)と導入予定(新規設置)の機種の消費電力量を比較し、該当の補助金の省エネ基準を満たす必要があります。
機種の消費電力を調べるには、次の方法があります。導入予定のパッケージエアコンの場合はカタログやメーカーのWEBサイトから仕様表にて確認します。
既存の消費電力を調べるには、まずは実際に設置されている室外機と室内機の型番を確認し、その型番をもってメーカーに仕様表を提供してもらうか、メーカーのWEBサイトで型番を検索して仕様を確認します。
また、補助金の申請で比較する消費電力量は1対1や2の店舗用パッケージエアコンと1対複数のマルチ型パッケージエアコンでは少し違っているので、補足で説明します。
店舗用パッケージエアコンの場合はセットでの型式があり、仕様表にはセットとして消費電力量が記載されています。
それに対しマルチ型パッケージエアコンは室外機、室内機それぞれに仕様表があり、補助金申請で比較する消費電力量は室外機のみになります(補助金額は室内機、室外機共対象となります)。
パッケージエアコンの効率を表す指標 COPとAPFについて
パッケージエアコンの効率を表す指標にCOP(エネルギー消費効率)とAPF(通年エネルギー消費効率)というものがあります。
●copについて
パッケージエアコンの効率を表す指標にCOP(エネルギー消費効率)とAPF(通年エネルギー消費効率)というものがあります。
COP(エネルギー消費効率)は省エネルギー法の目標基準値であり、JIS定格条件にてパッケージエアコンを連続運転したときのエネルギー消費効率を表したもので、この値が高いほど効率が良いといえます。
COP(エネルギー消費効率)の計算式
COP(エネルギー消費効率)=能力(kW)÷消費電力(kW)
冷暖房平均COPの計算式
冷暖房平均COP=(冷房COP+暖房COP)÷2
●AFP(通年エネルギー消費効率)について
COPに対しAPFは「通年エネルギー消費効率」の事で、APFはパッケージエアコンの省エネルギー性能を効率で表したものです。
以前からカタログ等に表記されていた「COP(エネルギー消費効率)」がJIS条件の外気温、室温で一定の時の効率であるのに対し、年間の気温等の変化する諸条件を決めて算定された、一年使った時の効率の目安であるのが大きな違いです。
各メーカー間で共通の1年間に必要な冷暖房能力を、そのパッケージエアコンの期間消費電力(1年間の電気代目安)で割ったものとなっており、数字が大きいほど省エネという事になります。
APF(通年省エネルギ効率)の計算式
通年エネルギー消費効率(APF)=1年間で必要な冷暖房能力の総和÷期間消費電力量
近年は省エネ効率をAPFで評価する事が一般的になっています。
補助金ではCOPやAPFの必要最小値を形や能力毎に定めていて、それ以上の効率の機械でないと申請できないものが殆どです。
“この条件は「環境物品などの調達の推進に関する基本方針」※1 に定められている値としていることが多いです。
※1グリーン購入法第6条に基づき、国や独立行政法人などが環境負荷の少ない製品やサービスを優先的に調達するために定める、総合的・計画的な推進の指針”
消費電力量の計算方法
補助金では既存と導入予定のパッケージエアコンの1年間の消費電力量を比較する事で、申請条件を満たしているか判断されます。
申請する補助金によって、各省庁・自治体の他、申請の受付を執行する団体などがあり、その事務局等が募集要項や書式フォーマットで省エネ計算シートを指定している場合があります。
その書式によっても考え方などが違うので、申請する補助金の計算フォーマットを使って条件をクリアできるか試算が必要です。
それでは計算の方法について具体的に説明していきます。本コラムでは省エネルギー量の評価を1年間のエネルギー使用量の差で評価するものとします。
● 1)新旧パッケージエアコンの冷暖房能力と消費電力の確認
最初に既存と導入予定のパッケージエアコンの仕様表から冷暖房能力と消費電力量を確認します。殆どのケースでは冷暖房能力は同一となっていると思います。
● 2)パッケージエアコンの稼働時間
次に対象の機器が受け持っているエリアの稼働時間を月毎に算出します。
各月の執務(営業)日数とそのエリアの運転時間を確認します。
※例えば2025年度であれば、2025年4月から2026年3月迄の各月の執務(営業)日の日数と、1日の運転時間を確認します。
この各月の運転時間に、月毎の気温の差などによるパッケージエアコン(主にはコンプレッサー)の稼働率(負荷率)を掛けて各月の稼働時間を算出します。
エアコンはスイッチを入れてから消すまでずっとフル運転をしているわけではありません。季節によっては殆ど送風のみになる事もあります。
省エネルギーに最も影響するのは冷やしたり温めたりするためにコンプレッサーがどれだけ働いたかが重要になります。
そこで、建物用途や地域の違いなどでの稼働率を掛けてあげて、エネルギー使用量を求めるための稼働時間を算出する必要があります。
この稼働率の数値はいろいろな機関などでデータを出していますが、補助金申請の計算という事でこのコラムでは経産省が公募して環境共創イニシアチブ(以下SII)が執行団体である「省エネルギー投資促進支援事業」を参考にします。
インターネット等で電気料金の算出方法等を検索すると、1時間当りの消費電力×1日の運転時間×運転日数、と書かれているサイトが散見されます。
しかし、これではエアコンが運転時間中ずっとフル運転していることになり、電気使用量も電気料金も非常に大きくなってしまいます。
適切な電気使用量を算出するために、パッケージエアコンの稼働率(負荷率)が重要になってきます。
● 3)パッケージエアコンの運転効率について
パッケージエアコンの1年間の消費電力量を算定するためには、
1時間当たりの消費電力量×1年間の運転時間×稼働率
になります(月毎に稼働率を計算する場合には月毎に運転時間で計算します)が、新旧のパッケージエアコンの消費電力量を比較するには新旧両方の計算が必要です。この時問題になる事があるのが新旧の機械の運転効率です。
パッケージエアコンの仕様表には定格能力に対する定格消費電力(そのパッケージが定格能力で運転し続けた場合の消費電力)が記載されています。年代によって測定方法が違っていたり、コンプレッサーの違いなどによって定格消費電力が上がってしまっている場合があります。
製造年などによってインバーターの導入やコンプレッサー自体の効率の改良などで運転効率は確実に上がっていますが、何パーセント上がったかなどを個別に調べる事はかなり困難です。
本コラムでは上記で参考にしたSIIが補助金申請に使っている「省エネルギー量計算の手引き」を参考にさせていただき説明します。
この手引きの中では、設置年によって変化している部分負荷効率特性を考慮した平均COP比をグラフにして計算フォームに反映しています。
このフォームのように設置年による効率変化を考慮して省エネ量を計算する事で、パッケージエアコンを更新した場合の省エネルギー量がかなり正確に算出できると思います。
しかし、補助金の申請では各団体、自治体などから独自に計算フォームが与えられてそれに当てはめて計算するケースが少なくありません。
その場合、この設置年による効率の変化が加味されないケースも多く、省エネルギー量が申請条件に満たない事も出てきます。
その場合は、補助金の申請窓口(事務局)に問い合わせて、どのような対応が可能か確認する必要が出てきます。
電気使用量、原油換算エネルギー使用量、CO2排出量について
上記で説明したように、新旧のパッケージエアコンの電気使用量を算出しその差を求めることで電気の削減量が算出できることがお判りいただけたと思います。
補助金の申請条件が『何パーセントの省エネ率以上』などという条件であれば消費電力量の比較のみで算出できます。
しかし、補助金によっては原油換算エネルギー使用量の削減や、CO2排出量の削減を条件とされる場合が少なくありません。
その場合は、算出した消費電力量を換算して削減量を求める必要があります。
原油換算エネルギー使用量は、経済産業省資源エネルギー庁の『エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律施行規則』に換算係数が記載されています。
また、CO2排出量を求める各エネルギーの排出係数は、環境省の『温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度』のページに公開されています。
以上の資料を参考にして、計画しているパッケージエアコン更新工事が該当する補助金の対象となるかを確認する事になります。
本コラムでご紹介した省エネルギー計算方法を参考にしていただき、ご自身の計画でどのくらい省エネになるか一度計算してみてはいかがでしょうか。